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見えない黒から、見えてくるもの

グラフペーパー京都の5周年と、
京黒紋付染のストライプシャツ


ブラックホールも、ニーチェが語った深淵も。いつだって深い黒というのは人の好奇心や想像力を刺激してやまないもの。
グラフペーパー京都では、同じ京の地に根差して1世紀以上もそんな黒という色の奥行きを追求してきた老舗の染色工房の力を借りて、後染めのブラックシャツを製作しました。

深い黒とは、つまりは見えないことそのもの。だけど、服を覆った闇のように深い黒からは、歴史や品格、遊び心が確かに覗く。浮かび上がる生地のストライプは、さながら暗闇に射す一条の光のようで…。
ディレクターの南貴之に今回訊いたのは、5周年を記念し制作された、そんな特別なアイテムの話です。

Interview & Text Rui Konno
Filmed by  Go Tanabe



―今回は京都のお店のお話ですよね。もうオープンから何年経ったんですか?

5年です。今回のシャツは、その5周年のためにつくったアイテムだね。

―このシャツ…染めてあるんですか?



そうです。これを染めてくれてるのが京都紋付さんっていう、100年以上も京黒紋付染を続けてきたところで。元々着物の染めを長くやって来られたところに、洋服にも使える技法として真っ黒に染める深黒(しんくろ)加工っていうのを開発された染め屋さんなんですよ。たとえば、僕が白い服を持ち込んだら、それを真っ黒に染めるとか、そういうサービスもされていて。

―まさに老舗ですね。南さんご自身が京都紋付さんと出会ったのはいつ頃だったんですか?

去年の春夏、グラフペーパーが“墨(Sumi)”っていうテーマのコレクションをやったときに会いに行ったのが最初。「真っ黒な服にしたいんです」って。そこからお付き合いが始まって、今回はストライプの生地を染めてもらったっていう。

―あ! これ、よく見たら無地じゃないんですね。ベースをストライプシャツにしたのはどんな経緯だったんですか?





まず、少し前にオリジナルでストライプの生地をつくったんだけど、それがまだあったからどこかで何かに使いたいなとは思ってたの。それで、京都のお店の人たちと話してたら「やっぱりお客さんはみなさんシャツが好きですね。だから、京都のお店用にシャツをやって欲しいです」と言ってもらって。それで、せっかく京都だから京都紋付さんで黒染めにしたらどうかな? って。

―でも、普通の製品染めってベースが無地のことが多いですよね。

うん。だからストライプを真っ黒にしたらどんな風に仕上がるんだろうとテストで染めてもらったんです。そうしたら遠目では無地なんだけど、よく見るとぼんやりシャドウストライプっぽく柄があるっていうこの感じに上がってきて、「これ、おもしろいね!」って。それで、グラフペーパー京都の5周年っていう特別なタイミングだし、これを周年用の商品にしようか、となったワケ。

―なるほど。でも、ただ染めるだけだったらいろんな他にもいろんな選択肢がありますよね? 黒以外にも、それこそ色々と。

京都紋付さんはクラシックなものというか、歴史がある着物や反物を染めるっていう技術を使って未来に向かってる感じが、僕らの考えてる洋服の考え方と共通してるのかなと思ったんですよ。基本となるルールがある中で、シンプルでも新しい服をつくりたいっていう気持ちがあるから。あとは黒の深さも理由だね。



―黒のトーンがですか?

はい。黒で染めるっていうことはこれまでに何度もやったことがあるけど、本当に真っ黒にはなかなかならないなといつも思ってたんですよ。だけど、ここは本当に深い黒に染まる。それがすごいなって。「闇だよ」って言われましたね。

―何だか不穏なフレーズが出てきましたね。

京都紋付の社長さん、今は4代目なんですけど、その人と前にお話ししてたときに「“本当の黒”って何か知ってる?」って急に言われて。「何ですか?」って聞いたら、「闇だよ。要は光がないってこと」って。簡単に言ったら人間が色を認識してるっていうのは光を見てるわけだから、黒いっていうことはその光が少ないっていうことなんだと。技法の細かいところは秘伝だろうから僕も教えてもらえてないんですけど、多分、この黒には光を吸収するような性質があるんじゃないかなと思ってます。

―それこそブラックボックスですね。真相は闇の中というか。

いわゆる染めの後に加工が入っていて、そこがポイントなんだと思うけど、仕組みは僕には全然わからなくて。でも、この黒さだけで僕は満足です(笑)。正直、普通の染めだったら仕上がりがどうなるかなんてもう大体想像がつくんですよ。今回は「深黒加工にしたらどうなるんだろう?」っていう実験的な要素が結構強かったかな。

―型は3種類ですか?







3種類です。レギュラーカラーにバンドカラー、あとはウィメンズでワンピース。レギュラーとバンドはオーバーサイズのワンサイズです。京都は特に女性のお客さんも多いお店だから、どちらにも楽しんで欲しいなと思って。

―実際のシャツを見てると黒の深さも実感しますけど、光が当たったときにストライプの濃淡が少し強まったりして、そういう点でもあまり見たことのない表情ですよね。

不思議だよね。後染めだと言われなきゃ、織りで表現したようにも見える質感かもしれない。このシャツが京都のお店に掛かってるところが、また空間とマッチしていてすごくいいんですよ。

―それでいてシームのパッカリングなんかはやっぱり製品染めらしい表情ですよね。

そうそう。生地もシャリっとした中にちょっとだけとろみがあるというか、そういう風合いが出るんだよね。それこそ着物みたいな控えめな感じもあるし、この佇まいが格好いいんだよなぁ。やっぱり和装でもフォーマルは黒だし、そういうトラディショナルな要素が組み合わさってるのもおもしろいなと思ってます。

―こうして見ると、一口に黒と言っても表情は千差万別ですね。特に素材感と組み合わせられるとなおさら。

普段は赤みのある黒より、青い黒が好きなんだよね。抜染したときに茶色くなるものより、グレーっぽくなるような。

―わかります。でも、現代のウェアの黒には赤みのあるものが多いようにも感じます。大量生産品は特に。

何でだろうね。合成染料が発達したからなのかな。そっちの方が黒い服をつくりやすい理由があるのかもね。でも、黒を見てるときに“なんか強いな…”って感じることがあるんだけど、それって大体赤い黒なんだよね。逆に落ち着いた、クールな感じがする黒は青い黒。でも、今回の黒についてはそれすら超越しているというか。赤でも青でもない。黒に向かうんじゃなく、光を奪うっていうのが近いから。だからまったく別の次元から黒にアプローチしてる。



―黒って誰でも着るスタンダードな色だから、余計に新鮮ですよね。

前に墨のコレクションで、染め用の生地で同じ染めをやってもらったんだけど、本当に真っ黒になってさ。他の黒の服と合わせようとしたら、合わないんですよ。それだけが黒過ぎて、全然同化しなくて。色が違うんだよね。実際に。



―つくづく不思議ですね。どんな技法なのか。

真似されたくないんだろうね。どれだけ話しても、京都紋付の社長さんは絶対教えてくれません(笑)。

―そう言えば、これまでにも京都のお店でアニバーサリーの限定アイテムはつくられてきたんですか?
うん、和紙を使ったアイテムをつくったりしましたね、3周年の時だったかな。それは京都の人も、京都の外から来てくれた人たちも楽しんでくれたみたいなんで、今回の黒染めのシャツもそういう風になってくれたら嬉しいなぁ。

Contact

Graphpaper Kyoto
住所/ 京都府京都市中京区大黒町88-1
tel. 075-212-2228
定休日/水曜
見えない黒から、見えてくるもの

グラフペーパー京都の5周年と、
京黒紋付染のストライプシャツ

ブラックホールも、ニーチェが語った深淵も。いつだって深い黒というのは人の好奇心や想像力を刺激してやまないもの。
グラフペーパー京都では、同じ京の地に根差して1世紀以上もそんな黒という色の奥行きを追求してきた老舗の染色工房の力を借りて、後染めのブラックシャツを製作しました。

深い黒とは、つまりは見えないことそのもの。だけど、服を覆った闇のように深い黒からは、歴史や品格、遊び心が確かに覗く。浮かび上がる生地のストライプは、さながら暗闇に射す一条の光のようで…。
ディレクターの南貴之に今回訊いたのは、5周年を記念し制作された、そんな特別なアイテムの話です。

Interview & Text Rui Konno
Filmed by  Go Tanabe


―今回は京都のお店のお話ですよね。もうオープンから何年経ったんですか?

5年です。今回のシャツは、その5周年のためにつくったアイテムだね。

―このシャツ…染めてあるんですか?



そうです。これを染めてくれてるのが京都紋付さんっていう、100年以上も京黒紋付染を続けてきたところで。元々着物の染めを長くやって来られたところに、洋服にも使える技法として真っ黒に染める深黒(しんくろ)加工っていうのを開発された染め屋さんなんですよ。たとえば、僕が白い服を持ち込んだら、それを真っ黒に染めるとか、そういうサービスもされていて。

―まさに老舗ですね。南さんご自身が京都紋付さんと出会ったのはいつ頃だったんですか?

去年の春夏、グラフペーパーが“墨(Sumi)”っていうテーマのコレクションをやったときに会いに行ったのが最初。「真っ黒な服にしたいんです」って。そこからお付き合いが始まって、今回はストライプの生地を染めてもらったっていう。

―あ! これ、よく見たら無地じゃないんですね。ベースをストライプシャツにしたのはどんな経緯だったんですか?





まず、少し前にオリジナルでストライプの生地をつくったんだけど、それがまだあったからどこかで何かに使いたいなとは思ってたの。それで、京都のお店の人たちと話してたら「やっぱりお客さんはみなさんシャツが好きですね。だから、京都のお店用にシャツをやって欲しいです」と言ってもらって。それで、せっかく京都だから京都紋付さんで黒染めにしたらどうかな? って。

―でも、普通の製品染めってベースが無地のことが多いですよね。

うん。だからストライプを真っ黒にしたらどんな風に仕上がるんだろうとテストで染めてもらったんです。そうしたら遠目では無地なんだけど、よく見るとぼんやりシャドウストライプっぽく柄があるっていうこの感じに上がってきて、「これ、おもしろいね!」って。それで、グラフペーパー京都の5周年っていう特別なタイミングだし、これを周年用の商品にしようか、となったワケ。

―なるほど。でも、ただ染めるだけだったらいろんな他にもいろんな選択肢がありますよね? 黒以外にも、それこそ色々と。

京都紋付さんはクラシックなものというか、歴史がある着物や反物を染めるっていう技術を使って未来に向かってる感じが、僕らの考えてる洋服の考え方と共通してるのかなと思ったんですよ。基本となるルールがある中で、シンプルでも新しい服をつくりたいっていう気持ちがあるから。あとは黒の深さも理由だね。



―黒のトーンがですか?

はい。黒で染めるっていうことはこれまでに何度もやったことがあるけど、本当に真っ黒にはなかなかならないなといつも思ってたんですよ。だけど、ここは本当に深い黒に染まる。それがすごいなって。「闇だよ」って言われましたね。

―何だか不穏なフレーズが出てきましたね。

京都紋付の社長さん、今は4代目なんですけど、その人と前にお話ししてたときに「“本当の黒”って何か知ってる?」って急に言われて。「何ですか?」って聞いたら、「闇だよ。要は光がないってこと」って。簡単に言ったら人間が色を認識してるっていうのは光を見てるわけだから、黒いっていうことはその光が少ないっていうことなんだと。技法の細かいところは秘伝だろうから僕も教えてもらえてないんですけど、多分、この黒には光を吸収するような性質があるんじゃないかなと思ってます。

―それこそブラックボックスですね。真相は闇の中というか。

いわゆる染めの後に加工が入っていて、そこがポイントなんだと思うけど、仕組みは僕には全然わからなくて。でも、この黒さだけで僕は満足です(笑)。正直、普通の染めだったら仕上がりがどうなるかなんてもう大体想像がつくんですよ。今回は「深黒加工にしたらどうなるんだろう?」っていう実験的な要素が結構強かったかな。

―型は3種類ですか?







3種類です。レギュラーカラーにバンドカラー、あとはウィメンズでワンピース。レギュラーとバンドはオーバーサイズのワンサイズです。京都は特に女性のお客さんも多いお店だから、どちらにも楽しんで欲しいなと思って。

―実際のシャツを見てると黒の深さも実感しますけど、光が当たったときにストライプの濃淡が少し強まったりして、そういう点でもあまり見たことのない表情ですよね。

不思議だよね。後染めだと言われなきゃ、織りで表現したようにも見える質感かもしれない。このシャツが京都のお店に掛かってるところが、また空間とマッチしていてすごくいいんですよ。

―それでいてシームのパッカリングなんかはやっぱり製品染めらしい表情ですよね。

そうそう。生地もシャリっとした中にちょっとだけとろみがあるというか、そういう風合いが出るんだよね。それこそ着物みたいな控えめな感じもあるし、この佇まいが格好いいんだよなぁ。やっぱり和装でもフォーマルは黒だし、そういうトラディショナルな要素が組み合わさってるのもおもしろいなと思ってます。

―こうして見ると、一口に黒と言っても表情は千差万別ですね。特に素材感と組み合わせられるとなおさら。

普段は赤みのある黒より、青い黒が好きなんだよね。抜染したときに茶色くなるものより、グレーっぽくなるような。

―わかります。でも、現代のウェアの黒には赤みのあるものが多いようにも感じます。大量生産品は特に。

何でだろうね。合成染料が発達したからなのかな。そっちの方が黒い服をつくりやすい理由があるのかもね。でも、黒を見てるときに“なんか強いな…”って感じることがあるんだけど、それって大体赤い黒なんだよね。逆に落ち着いた、クールな感じがする黒は青い黒。でも、今回の黒についてはそれすら超越しているというか。赤でも青でもない。黒に向かうんじゃなく、光を奪うっていうのが近いから。だからまったく別の次元から黒にアプローチしてる。



―黒って誰でも着るスタンダードな色だから、余計に新鮮ですよね。

前に墨のコレクションで、染め用の生地で同じ染めをやってもらったんだけど、本当に真っ黒になってさ。他の黒の服と合わせようとしたら、合わないんですよ。それだけが黒過ぎて、全然同化しなくて。色が違うんだよね。実際に。



―つくづく不思議ですね。どんな技法なのか。

真似されたくないんだろうね。どれだけ話しても、京都紋付の社長さんは絶対教えてくれません(笑)。

―そう言えば、これまでにも京都のお店でアニバーサリーの限定アイテムはつくられてきたんですか?
うん、和紙を使ったアイテムをつくったりしましたね、3周年の時だったかな。それは京都の人も、京都の外から来てくれた人たちも楽しんでくれたみたいなんで、今回の黒染めのシャツもそういう風になってくれたら嬉しいなぁ。

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住所/ 京都府京都市中京区大黒町88-1
tel. 075-212-2228
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